2 胎児・行方不明者の扱い
前回は、遺産分割の当事者についてみてきました。法定相続人はもちろん、包括受遺者、相続分の譲受人、遺言執行者が遺産分割の当事者でした。
ところが、当事者の一部が、遺産分割協議に参加できないという場合も考えられます。たとえば、胎児がいる場合、あるいは相続人の一部が行方不明・生存不明になっているような場合です。
では、胎児や行方不明・生存不明の者はどのように扱われるのでしょうか?
(1)相続人の一部が行方不明の場合
この場合、まず、家庭裁判所に不在者の財産管理人を選任してもらう必要があります(民法25条1項)。そのうえで、この管理人と他の共同相続人との間で遺産分割協議をおこなうという流れになります。
もっとも不在者の財産管理人は、財産の保存行為および権利の性質を変えない限度の利用・改良行為しかできません。遺産分割協議は財産処分の側面があるので、そのままでは不在者の財産管理人としての権限を越えてしまいます。
この点について民法28条は、つぎのように規定しています。
【民法28条】(管理人の権限)
管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
すなわち不在者の財産管理人が遺産分割協議に参加するためには、家庭裁判所の許可を得る必要があるということです。
(2)相続人のなかに胎児がいる場合
まず、そもそも胎児が相続人になるか?という点について、民法886条はつぎのように規定してます。
【民法886条】(相続に関する胎児の権利能力)
第1項 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
第2項 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
このように相続開始時に胎児であっても、相続関係においては「出生したもの」とみなしています。つまり胎児も相続人になるワケです。
では、遺産分割協議において胎児の相続権は、どのように確保すべきでしょうか?相続が開始したものの、胎児が未だ出生していないという状況の下で、遺産分割協議をどのように進めるべきでしょうか?
この点、胎児を除く他の共同相続人間での分割を許し、胎児の出生後は、死後認知を受けた者に関する民法910条を類推適用して価額のみの支払請求を認めるべきとする見解があります。
まず民法910条をみてみましょう。
【民法910条】(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
この規定は、遺言による死後認知(民法781条1項)や父の死後の認知の訴え(民法787条)によって、被認知者が相続人になった場合に関するものです。同条が想定してるのは、つぎのような場面です。
死後認知を受けて相続人となった人がいました。ところが他の共同相続人によって、すでに遺産分割がおこなわれていたとします。この場合、被認知者はもう何ももらえなくなってしまうのでしょうか?
もし、何ももらえないとすると、非嫡出子の保護が不十分になります。しかし、いったん終了した遺産分割を再度やり直すのも大変です。
そこで民法は、910条で遺産分割の安定と非嫡出子の保護の調和を図ろうとしているのです。この規定により、遺産分割後に認知された非嫡出子には価額の償還請求が認められています。すなわち、自分が受けられるはずだった相続分に相当する額のお金を請求できるというワケです。
前記見解は、この規定を胎児の場合にも適用して処理しようというワケです。
しかし、この見解によると胎児が出生する前に遺産分割がすでに終了してしまうのですから、実際には胎児の権利が保護されないおそれがあります。
そこで、出生するまでは遺産分割協議をすることができないと解するのが通説的見解です。胎児が生きて生まれた場合は相続人になること、分割の実行までに時間がかかるのに対し胎児の出生時期はあらかじめ想定できることなどがその理由とされています。
3 当事者の一部を除外した分割協議
ここまで、どのような人が遺産分割協議の当事者になるのかについて検討してきました。胎児や行方不明者がいる場合など他の共同相続人にとっては面倒くさいカンジです。
「もう、いいじゃん!そんなの無視して、分割しようゼ。」という相続人もいるかもしれません。
しかし、遺産分割の当事者にあたる人を除外しておこなわれた遺産分割協議は無効です。結局、遺産分割をやり直さなければならないということです。
相続人のなかに胎児や行方不明者がいるような場合、忍耐が必要になるかもしれません。
4 ケースの遺産分割協議の当事者は誰か?
さて、【ケース2】では、共同相続人BCが遺産分割協議をおこなうことになります。ところが、分割協議が成立する前にBが死亡しています。
この場合、Bが受ける筈だった法定相続分はBの配偶者D、Bの子Eがそれぞれ相続します。このためAの相続について、DEが新たに遺産分割の当事者になります。
したがって、ケースの遺産分割の当事者はCDEの三人です。
なお、本ケースの素材となった平成29年宅建試験第6問の選択肢2は、「Eが代襲相続人として」とあります。
では本問のEは、代襲相続人でしょうか?
代襲相続が生じるのは、BがAよりも先に死亡していた場面です。
しかし、本問のBはAの相続開始時には生存しています。すると本問のEは、代襲相続人ではありません。
したがって、同選択肢の記述はこの点で誤りです。






