2018年4月29日日曜日

平成29年度宅建試験〔相続〕から(10)相続の承認および放棄



七 相続の承認および放棄

 まず、つぎのケースをみてください。

【ケース4】〔選択肢4〕
Aが死亡し、BCの二人が相続人となった。Bが自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に対して、相続によって得た財産の限度においてのみAの債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続を承認する限定承認をする旨を申述した。この場合、Cも限定承認をしたものとみなされるか?

相続開始から3か月の間にBは、家庭裁判所に限定承認という手続をとっています。では、この限定承認というのは、どのような手続なのでしょうか?

1 相続人による相続選択
被相続人の権利・義務は、相続開始と同時に相続人に承継されます(民法896条)。しかし、相続財産といっても現金、預貯金、株式、不動産のようなプラスの財産(積極財産)ばかりとは限りません。借金などの債務(消極財産)も相続の対象になります。

もっとも、相続が開始しても相続人は相続することを強制されません。相続は義務ではないということです。むしろ民法は、相続財産の承継に関し、単純承認、限定承認、相続放棄という三つの選択肢を用意しています。相続人には、この3つの中から自由に相続に関する選択をすることができるというワケです。

2 熟慮期間
ところで、相続人が相続に関する選択をするには被相続人の財産状況を調べ、情報を得る必要があります。このため相続人に相続選択を直ちに要求するのは、相続人の利益を害することになります。

もっとも、いくら相続人に相続選択の自由が認められているからといって、選択をズルズル引き延ばすことを許すと、権利義務関係がいつまでも不安定な状態におかれます。このため、他の相続人および被相続人と生前に取引した相続債権者等の利害関係人に不利益を与えるおそれがあります。

そこで民法は相続人に相続選択に関して検討する時間を与えて、その間に選択させることにしました。民法915条をみてください。

【民法915条】(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第1項 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
第2項 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

 「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」とされています。この期間を「熟慮期間」といいます。熟慮期間内に、単純承認をするか、限定承認をするか、相続放棄をするか選択しなさいということです。

 3 単純承認
 相続人が、一身専属的な権利を除いて、被相続人の一切の権利・義務を包括的に承継することを単純承認といいます。民法920条をみてください。

【民法920条】(単純承認の効力)
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

単純承認をするのに特別な方式・手続はありません。口頭で「相続する」と言うだけでもOKです。

同条は、「無限に被相続人の権利義務を承継」とあります。したがって相続人が単純承認した場合、プラスの財産はもちろん、被相続人が生前した借金(債務)などのマイナスの財産(消極財産)も相続することになります。

当然、プラスの財産だけでは被相続人が生前にした借金を返済するのに不足する場合があります。その場合、単純承認をした相続人は自分の固有財産で借金の返済することになります。

「じゃあ、借金は放棄することにして、プラスの財産だけもらってしまえばバレないんじゃね?」

…相続放棄については後述しますが、相続放棄は文字どおり「すべての相続財産の承継」を拒否する選択肢なので、相続財産の一部だけを放棄することはできません。

また、相続放棄をしたにもかかわらず、プラスの財産を隠したり売却したりすると、法定単純承認にあたり単純承認したものとみなされます。民法921条をみてください。

【民法921条】(法定単純承認)
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一  相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二  相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三  相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

1号および3号に注目してください。相続人が相続財産を売却した場合、その相続人は単純承認したものとみなされるというのが921条1号です。相続放棄をした相続人がプラスの相続財産を隠したりした場合も、単純承認したものと扱われるというのが921条3号です。

 民法921条2号も要注意です。熟慮期間内に、相続放棄および限定承認をしなければ単純承認したことになってしまします。このことから日本の相続制度は、単純承認を原則にしているものと考えられています。

 4 限定承認
 (1)限定承認の意義
 さきに述べたように単純承認をしてしまうと、被相続人が生前にした借金も相続してしまいます。このため相続財産のうちマイナスの財産(消極財産)がプラスの財産(積極財産)を上回る場合、相続人は自己の固有財産から借金の返済をしなければなりません。

 しかし相続財産のうち、プラスの財産(積極財産)とマイナスの財産(消極財産)のどちらが多いか判断が困難な場合もあります。このような場合に用いられるのが限定承認です。

 限定承認とは、相続財産の限度でまず被相続人の債務を弁済し、残余財産を相続するという制度です。民法922条をみてください。

【民法922条】(限定承認)
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

 条文が難解なので「どういう意味かワカラナイ」という人も多いと思います。ようするに被相続人が作った借金は、被相続人のプラスの財産(積極財産)で返済すればよいという発想です。つまり、相続財産のなかで清算してしまうのです。

そして残った財産が限定承認をした相続人のモノになります。被相続人の作った借金が残った場合、相続人は支払責任を負わないと扱われます(責任なき債務)。

 (2)限定承認の手続
 さて、限定承認をするには、さきにみた熟慮期間内に財産目録を作成し家庭裁判所へ行って「限定承認の申述」をする必要があります。共同相続の場合、限定承認の申述は相続人全員でしなければなりません。民法923条をみてください。

【民法923条】(共同相続人の限定承認)
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

 「全員が共同してのみ」としていますから、共同相続人のうち一人が単純承認したり、あるいは法定単純承認にあたる事情がある場合は限定承認できません。

 (3)ケース4の検討
 【ケース4】において限定承認の手続をしているのはBのみです。他の相続人Cは限定承認の申述をしていません。
 
 民法923条は、相続人全員が共同してのみ限定承認をすることができるとしていました。したがって、共同相続人のうちBが限定承認しただけでは、Cも限定承認したことにはなりません。

 平成29年度宅建試験第6問選択肢4は、「Cも限定承認をする旨を申述したとみなされる。」となっていました。民法923条の規定によれば、このような扱いはありません。よって、この記述は誤っていることになります。

 5 相続放棄
 (1)相続放棄の意義
 相続放棄は、相続人が相続放棄による包括承継の効果を全面的に拒否する意思表示をいいます。ですから相続放棄をすると、相続財産から何らかの財産をもらうことはできないということになります。

 (2)相続放棄の手続
 誤解をしている人も多いようですが、いくら口頭で「ワタシは相続放棄する」と言ってもダメです。

 相続放棄をするためには、熟慮期間内に家庭裁判所へ「相続放棄の申述」をする必要があります。このような手続をとらないでいるうちに熟慮期間が経過してしまうと、法定単純承認になってしまいます(民法921条2号)。

 さて、ようやく、平成29年度宅建試験第6問の検討を終えました。4、5回くらいで終わるかな?と思っていましたが、とんでもないことになってしまいました。

たった1問の資格試験問題をここまで引っ張る…、じゃなかった、ここまで解説したものは当ブログ以外に、たぶん、存在しないでしょう。

 これからも、ここまでの「宅建シリーズ」のように、「たった1問」をムダに掘り下げていきたいと思います。

えっ?つぎのテーマですか?

…まだ決まってません。

2018年4月24日火曜日

平成29年度宅建試験〔相続〕から(9)遺産分割の対象④


4 預金債権の扱いについて(つづき)
 前回みた最大決平成28年12月19日は、預貯金契約の解釈をおこなうことによって普通預金および通常貯金は当然分割承継されないとしています。とくに重要なポイントは、

①預貯金が、現金に近いものとして意識されていること。
②「預貯金債権は、口座の既存の預貯金債権と合算され、1個の預貯金債権として扱われる」こと。
③預貯金残高が0円になっても、預貯金契約は終了しない(口座は生きている)。
④預貯金債権は「口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはない」。

という点にあります。

共同相続人が、遺産共有するのは「預貯金契約上の地位」という点に注目してください。これは、ようするに一つの銀行預金口座、ゆうちょ口座を共同相続人が共有するというイメージです。当然、口座それ自体は可分債権ではありません。

では、口座のなかに入っている金額についてはどうでしょうか?一見、法定相続分に応じた当然分割をしても問題が無いように思えます。

この点について最高裁判所は、まず、預貯金が現金に近いものとして考えられているという社会意識を考慮しています。これは、最判平成4年4月10日家裁月報44巻8号16頁を念頭においた説示のようです。

最高裁判所は、被相続人Aの死後、共同相続人の一人であるYが遺産中の現金を「A遺産管理人Y」名義の銀行通知預金として保管していた事案で、つぎのように説示していました。

「相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないと解するのが相当である。」(最判平成4年4月10日家裁月報44巻8号16頁)

ここで、「あれ、前にみた最判昭和29年4月8日と矛盾してない?」と思った人いませんか?

たしかに、最判昭和29年4月8日は「金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」と説示していました。そうすると、相続開始時に存在した金銭も相続分に応じて当然分割承継されるということになり、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることができそうです。

にもかかわらず上記最判平成4年4月10日は、遺産分割までの間は自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることができないとしています。

では、上記最判平成4年4月10日は最判昭和29年4月8日を変更したのでしょうか?

しかし、そのように考えることは困難です。判例変更するには、大法廷において裁判しなければならないからです(裁判所法10条3号)。

そうすると上記最判平成4年4月10日は、最判昭和29年4月8日と整合性のある(矛盾しない)判決だということになります。何らかの理屈によれば、両者は矛盾せず筋の通った判例と考えるのです。

では、どのような理屈をつけると、両者は矛盾しないといえるのでしょうか?

争いの余地はありますが、とりあえずここでは最判昭和29年4月8日の「金銭その他の可分債権」とは「金銭債権その他の可分債権」を意味すると考えることにしましょう。

…解ります?

つまり、金銭と可分債権という意味ではなく、「金銭」は可分の後の「債権」にかかっている、あるいは「金銭」の後に来る筈の「債権」が省略されていると読めば矛盾しないということです。

たしかに「金銭その他の可分債権」という語句の用法は奇妙といえば奇妙です。「金銭」の後に句読点をつけて、「金銭、その他の可分債権」としても違和感があります。なぜか?それは「その他の」があるからです。

法律において「その他の」を用いる場合、通常は、「その他の」の前に置かれている語句は例示です。「その他の~」の部分が本体になります。最判昭和29年4月8日でいえば、「その他の可分債権」が本体で、その前に置かれている「金銭」は「その他の可分債権」の例示ということになるのです。

しかし金銭と可分債権は、よく考えてみると別モノです。金銭は「価値そのもの」であるのに対し、可分債権は「分割可能な請求権」すなわち「権利」だからです。「権利」の例が「価値」というのは、日本語としても理論的にもおかしいといえます。

「その他の可分債権」の前には、可分債権に分類される債権の具体例が挙げられていなければならないということです。そして、可分債権の例としては金銭債権が挙げられます。そうすると「金銭その他の可分債権」の「金銭」とあるのは、実は金銭債権のつもりだろう、というワケです。

そして上記最判平成4年4月10日にいう「金銭」は、文字どおり現金のことで金銭債権ではない(可分債権でない)と考えるのです。

以上のように考えるなら、最判昭和29年4月8日と最判平成4年4月10日は矛盾せず整合性があるといえるワケです。

こうして上記最判平成4年4月10日は、金銭債権と異なり金銭(現金)は当然分割承継されず遺産分割の対象になるとしたのです。金銭(現金)をこのように扱う法的根拠は、金銭が動産と同様に扱われる点にあります。

「金銭の所有権者は、特段の事情のないかぎり、その占有と一致すると解すべきであり、また金銭を現実に支配して占有する者は、それをいかなる理由によって取得したか、またその占有を正当づける権利を有するか否かに拘わりなく、価値の帰属者即ち金銭の所有者とみるべきものである。」(最判昭和39年1月24日判例時報365号26頁)。

以上をふまえて、預貯金が現金に近いものだというのが、最高裁平成28年12月19日決定の考え方といえそうです。そして同決定は、預貯金を現金類似のものと考えて法定相続分に応じた当然分割を否定し、遺産分割の対象になるとしたのです。

 次回は、平成29年度宅建試験第6問選択肢4を素材とした【ケース4】について検討します。

2018年4月16日月曜日

平成29年度宅建試験〔相続〕から(8)遺産分割の対象③


4 預金債権の扱いについて

実際の遺産分割の場面で問題となる金銭債権の多くは預貯金債権です。総務省、日本銀行、全国銀行協会の調査・統計によると、日本の家庭における金融資産のうち預貯金の占める割合は40%以上とされています。このことから相続の場面においても、多くの場合、預貯金が相続財産の構成要素になっていると推測できます。

 では、預貯金債権は遺産分割の対象になるでしょうか?

 預貯金債権は、ようするに銀行、ゆうちょ銀行等に対して口座に入っているお金の払戻を求める権利です。つまり、金銭債権といえそうです。そうすると、預貯金債権は可分債権ということになり相続開始時に各相続人に当然分割されることから遺産分割の対象にならないともいえそうです。

 実際、かつて判例は、他の共同相続人が被相続人名義の貯金(通常郵便貯金)を解約して払戻を受けた事案において以下のように説示していました。

 「相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではない」(最判平成16年4月20日判例時報1859号61頁)。

 つまり貯金債権は可分債権だから、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然分割されるというのです。この判例に従えば、各共同相続人は相続財産である預貯金について法定相続分に応じた払戻を請求することができる筈です。

 もっとも、銀行実務では共同相続人の一人から請求されたからといって、ただちに法定相続分に応じた預金の払戻をしてきたワケではありません。

 多くの場合、銀行は引き出しや解約を求める相続人に対し、相続関係書類(戸籍全部事項証明書や他の相続人の相続放棄申述受理通知書、遺産分割協議書等)の提出を求めていました。

 以上のような扱いに対し、法定相続分に従った支払いに応じる金融機関もあったそうです。判例に忠実な対応をする金融機関も存在したということです。これは、訴訟リスク・コストを考慮すると支払を拒むよりも支払ってしまった方が合理的だという理由からです。

 このような状況下で最高裁は、平成28年に前記最高裁平成16年判決の立場を変更し、つぎのように説示しました。

 「預貯金は、預金者においても、確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差をそれほど意識させない財産であると受け止められているといえる。」
「普通預金契約及び通常貯金契約は、一旦契約を締結して口座を開設すると、以後預金者がいつでも自由に預入れや払戻しをすることができる継続的取引契約であり、口座に入金が行われるたびにその額についての消費寄託契約が成立するが、その結果発生した預貯金債権は、口座の既存の預貯金債権と合算され、1個の預貯金債権として扱われるものである。また、普通預金契約及び通常貯金契約は預貯金残高が零になっても存続し、その後に入金が行われれば入金額相当の預貯金債権が発生する。このように、普通預金債権及び通常貯金債権は、いずれも、1個の債権として同一性を保持しながら、常にその残高が変動し得るものである。そして、この理は、預金者が死亡した場合においても異ならないというべきである。すなわち、預金者が死亡することにより、普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に帰属するに至るところ、その帰属の態様について検討すると、上記各債権は、口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される。そして、相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが、預貯金契約が終了していない以上、その額は観念的なものにすぎないというべきである。預貯金債権が相続開始時の残高に基づいて当然に相続分に応じて分割され、その後口座に入金が行われるたびに、各共同相続人に分割されて帰属した既存の残高に、入金額を相続分に応じて分割した額を合算した預貯金債権が成立すると解することは、預貯金契約の当事者に煩雑な計算を強いるものであり、その合理的意思にも反するとすらいえよう。」
「預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」(最大決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁)

 つまり、普通預金債権および定期貯金債権は、その権利の内容および性質を考慮すると当然分割承継されることはないから、共同相続人全員の合意の有無にかかわらず遺産分割の対象になるとしたのです。

 この点、本決定は預貯金債権を可分債権の当然分割承継原則の例外として位置付けたもの、という理解もあるようです。

たしかに民法の原則は、債権者または債務者が数人ある場合、当事者間の特約、法律の規定、特段の慣習がなければ分割債権関係になるというものです。

【民法427条】(分割債権及び分割債務)
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

もっとも、この原則を貫くと当事者の意思や取引の実情に反し債権の実効性を弱めるおそれが生じます。また、そもそも可分債権について規定する現行民法427条は「別段の意思表示がないときは」としています。

そこで債権者または債務者が数人いるからといって、ただちに可分債権になるワケではないと考えられてきました。

つまり、分割債権関係になるかどうかは債権の内容および性質によって決まります。債権の内容および性質を明らかにするには、民法の規定のほか債権発生原因を考慮する必要があります。

ここでのテーマにそくしていえば、預貯金債権が分割債権関係になるかどうかは預貯金契約の内容および性質によって決まるということです。

しかし本決定は、預貯金の性質上、分割債権関係にならないとしています。また、預貯金債権は可分債権であるとする説示もありません。

そうすると、必ずしも預貯金債権を「可分債権の当然分割承継の例外」と扱っているとはいえません。むしろ、預貯金債権は可分債権ではないと判断したものという理解も可能です。

次回は引き続き、最大決平成28年12月19日の検討をおこないます。

2018年4月9日月曜日

平成29年度宅建試験〔相続〕から(7)遺産分割の対象②


前回から遺産分割の対象というテーマに取りかかりました。今回は、相続開始後に生じた賃料債権の扱いについて検討します。まず、現在検討中のケースを確認しておきましょう。

【ケース3】
Aが死亡し、BCの二人が相続人となった。BCの遺産分割協議が成立するまでの間に遺産である不動産から賃料債権が生じ、BとCがその相続分に応じて当該賃料債権を分割単独債権として確定的に取得した。遺産分割協議で当該不動産をBが取得した場合、Cは既に取得した賃料債権を清算する必要はあるか?

(2)相続開始後、遺産分割までの間に生じた賃料債権
この場合の賃料債権の扱いについて、まず確認しなければならないことがあります。それは、相続開始後、遺産分割までの間に生じた賃料債権が相続財産になるのか?という点です。

この賃料債権は、相続財産のなかの賃貸物件から生じた債権です。そうすると、相続財産であると考えるかもしれません。しかしよく考えてみると、相続開始後に生じた賃料債権を相続財産と考えることはできない筈です。なぜでしょうか?

 さきにもみたように、相続が開始すると被相続人に属した一切の権利義務は相続人が承継します(民法896条)。そうすると賃貸物件の所有権も、相続人に移転していることになります。

所有権の内容は、使用・収益・処分権です(民法206条)。つまり、相続開始後、賃貸物件から生じる賃料債権は相続人のもとで生じることになります。

このことから、相続開始後に相続財産から生じた賃料債権それ自体は、相続財産ではないということになるのです。

そうだとすれば、この場合の賃料債権は遺産分割の対象にもなりません。遺産分割の対象は、遺産分割時の「相続財産」だからです。そこで、相続財産でないのだから、当然、遺産分割の対象にもならないという考え方があります。

このことは、賃料債権権に限らず遺産分割までの間に相続財産から生じた果実全般についてもいえます。このため多くの基本書等では、「相続開始後、遺産分割までの間に生じた果実」というかたちで検討されています。

 さて、相続開始後、遺産分割までに生じた賃料債権(果実)が遺産分割の対象にならないとすれば、共同相続人間においてこの場合の賃料債権(果実)をどのように扱うのでしょうか?

 遺産分割の対象にならないのですから、遺産分割協議では相続開始後に生じた賃料債権の分割について協議しないということです。賃料債権の分割については、別途の解決が必要になります。

 しかし、これでは遺産関係の相続人間の争いを分割後にも残すことになり、紛争の一回的解決になりません。このため各相続人に大きな負担を強いることになります。

 以上に対して、相続開始後に生じた果実も遺産の自然的増大なので遺産と同視して、すべて遺産分割の対象になるという考え方もあります。民法906条をみてください。

【民法906条】(遺産の分割の基準)
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

同条は、遺産分割の基準に関する規定です。共同相続人の共有となった遺産の分割にあたり、個別的な事件の事情を考慮しつつ相続人間の実質的公平を実現しようとしています。

そして、相続開始後、遺産分割までの間に果実が生じたという事情を「その他一切の事情」に含めて考え、相続開始後に生じた果実も遺産分割のなかで扱うというのが前述の考え方です。

つまり、遺産分割協議のなかで賃貸物件の分割はもちろん、相続開始後に生じた賃料債権も扱うということになります。

この考え方によれば、遺産分割のみで遺産をめぐる問題を解決できます。しかし他方で、遺産分割の内容が複雑なものになるおそれがあります。

この点、最高裁判所はケースと同様の事案において、つぎのように説示しました。

「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」(最判平成17年9月8日民集59巻7号1931頁)

つまり最高裁判所は、相続開始後、遺産分割までに共同相続不動産から生じた賃料債権は遺産とは別の財産であり、その相続分に応じて当然に分割帰属するとしました。

 遺産とは別個の財産というのですから、遺産分割の対象になりません。しかし、そうすると相続財産をめぐる紛争の一回的解決を図ることができなくなるおそれもあります。そこで、相続分に応じて当然に分割帰属するとしているワケです。

 ところで、相続開始後に生じた賃料債権は相続財産でもないのに、なぜ相続分に応じた分割をするのでしょうか?この点、以下のように考えておけばよいと思います。

 まず、賃料債権を生み出す不動産は相続開始により共同相続人の共有になります。遺産共有の状態です。すると共同相続人は、遺産中の不動産について相続分に応じた割合の共有持分を有していると考えられます。

 そして共有物から生じた果実は、元物の持分割合に応じて各共有者が取得すると考えられています。

 したがって、遺産共有の状態にある財産(元物)から生じた果実は、元物の持分割合である相続分に応じて取得することになるというワケです。

 3 【ケース3】の検討
 【ケース3】では、相続開始後、共同相続人BCによる遺産分割協議が成立するまでの間に遺産である不動産から賃料債権が生じています。そして、これを相続分に応じて各人が分割単独債権として確定的に取得しています。

 この債権の取得は、遺産分割によるものではありません。さきにもみたように、遺産分割の対象にならず当然分割帰属ということでしたね。

 そしてケースによれば、BC間の遺産分割協議により元物である不動産はBが取得しました。前記、最判平成17年9月8日によれば、後におこなわれた遺産分割の影響を受けないと説示していました。このことから、Cは分割単独債権として確定的に取得した賃料債権を清算する必要はありません。

 平成29年宅建試験第6問選択肢3は、前記最高裁平成17年9月8日の理解を問うものです。ここまでの検討のとおり、誤りはありません。正しい記述です。

 次回は、預金債権の扱いについて検討してみましょう。

2018年4月5日木曜日

平成29年度宅建試験〔相続〕から(6)遺産分割の対象①


六 遺産分割の対象

前回は、遺産分割の当事者について検討してみました。具体的には、誰が遺産分割協議に参加できるできる人なのか?という問題でした。今回は、遺産分割の対象についてみていきます。何を遺産分割するのか?という問題です。

【ケース3】
Aが死亡し、BCの二人が相続人となった。BCの遺産分割協議が成立するまでの間に遺産である不動産から賃料債権が生じ、BとCがその相続分に応じて当該賃料債権を分割単独債権として確定的に取得した。遺産分割協議で当該不動産をBが取得した場合、Cは既に取得した賃料債権を清算する必要はあるか?

1 遺産分割時の相続財産
相続人が数人存在する共同相続において、相続財産の帰属はどのように決まるのでしょうか?

相続が開始すると、被相続人の一切の権利義務が相続人に帰属します(民法896条)。共同相続の場合、遺産の権利関係は遺産共有の状態になります(民法898条)。

この遺産共有という状態については、学説上争いのあるところです。この点、つぎのように説示した最高裁判例があります。

「相続財産の共有(民法八九八条、旧法一〇〇二条)は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する『共有』とその性質を異にするものではないと解すべきである。」(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁)

判例は、民法上の共有と同じであるという見解に立っているということです。とりあえず、ここでは遺産共有≒共有と考えることにしましょう。

ただし、遺産分割前の遺産共有の状態は、あくまで遺産分割によって最終的に解消されるまでの暫定的・過渡期的状態というべきものです。民法は権利義務の帰属について、できるかぎり個人に単独帰属する状態を理想としているからです。

では、相続人は遺産を保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する遺産の引き渡しを請求できるでしょうか?

遺産共有の状態では、具体的にどの相続財産が誰に帰属するのか決まっていません。相続財産に土地・建物がある場合、それぞれの財産について共同相続人の共有状態になっています。土地が欲しいという相続人もいれば、建物が欲しいという相続人もいる筈です。

ここで相続分に相当する遺産の引渡しを認めるとしても、相続人間において協議をする必要があります。遺産分割をして、遺産共有の状態を解消することが必要になるワケです。そうだとすれば、このような引渡請求を認める意味はありません。

したがって遺産共有の状態のままでは、遺産を保管する他の相続人に対して自己の相続分相当の遺産の引渡しを求めることはできないことになります。

遺産分割の対象は、「遺産分割時の相続財産」です。この財産を具体的相続分に基づいて分配します。ただ、何が遺産分割時の相続財産になるかは、個別の財産ごとに検討する必要があります。

2 賃料債権の扱い
たとえば不動産を賃貸している場合、一定時期に賃料債権が発生します。相続財産のなかにこうした賃貸物件が存在する場合、この賃貸物件も遺産分割の対象になります。

では、賃貸物件から生じる賃料債権はどのように扱われるのでしょうか?ここでは、賃料債権が(1)相続開始時に既に発生していた場合と(2)相続開始後、遺産分割までの間に生じた場合とに分けて検討します。

(1)相続開始時に既に発生していた賃料債権
相続開始前に既に発生していた未払いの賃料債権は、相続開始によって相続財産となります。では、この場合の賃料債権は遺産分割の対象になるでしょうか?



相続財産になるのなら、遺産分割の対象になりそうです。しかし、金銭債権のような可分債権については注意が必要です。

相続財産のなかに金銭債権のような可分債権が存在する場合、判例は、遺産分割の対象にならないとしているからです。

「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする。」(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)

つまり、相続財産中の「金銭その他の可分債権」は、遺産分割をしなくても当然に法定相続分に応じて相続人に分割帰属するということです。このため家裁実務においては遺産が金銭債権だけである場合、分割の対象となる財産がないので遺産分割の申立てをしても却下されます。

ここで可分債権ならば遺産分割によらず当然分割されるというのは、民法427条の規定に基づいています。

【民法427条】(分割債権及び分割債務)
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

つまり、債権債務が「不可分債権・債務」でなければ可分だというワケです。いいかえれば、数人でひとつの債権を有する状態であれば、原則、各債権者がその債権を分割取得するということです。そして分割された債権を有する債権者は、自分の債権だけを単独で行使できます。

賃料債権も金銭債権です。金銭債権は、原則、可分債権です。すると賃料債権は、可分債権ということになります。

以上のことから、相続開始時に既に発生していた賃料債権は遺産分割の対象にならず、法定相続分に応じて当然分割承継されることになります。



 次回は、遺産分割の対象に関して引き続き賃料債権の取り扱いについて検討します。

2018年3月28日水曜日

平成29年度宅建試験〔相続〕から(5)遺産分割の当事者②


2 胎児・行方不明者の扱い
 前回は、遺産分割の当事者についてみてきました。法定相続人はもちろん、包括受遺者、相続分の譲受人、遺言執行者が遺産分割の当事者でした。

 ところが、当事者の一部が、遺産分割協議に参加できないという場合も考えられます。たとえば、胎児がいる場合、あるいは相続人の一部が行方不明・生存不明になっているような場合です。

 では、胎児や行方不明・生存不明の者はどのように扱われるのでしょうか?

(1)相続人の一部が行方不明の場合
この場合、まず、家庭裁判所に不在者の財産管理人を選任してもらう必要があります(民法25条1項)。そのうえで、この管理人と他の共同相続人との間で遺産分割協議をおこなうという流れになります。

もっとも不在者の財産管理人は、財産の保存行為および権利の性質を変えない限度の利用・改良行為しかできません。遺産分割協議は財産処分の側面があるので、そのままでは不在者の財産管理人としての権限を越えてしまいます。

この点について民法28条は、つぎのように規定しています。

【民法28条】(管理人の権限)
管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。

すなわち不在者の財産管理人が遺産分割協議に参加するためには、家庭裁判所の許可を得る必要があるということです。

 (2)相続人のなかに胎児がいる場合
 まず、そもそも胎児が相続人になるか?という点について、民法886条はつぎのように規定してます。

【民法886条】(相続に関する胎児の権利能力)
第1項 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
第2項 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

 このように相続開始時に胎児であっても、相続関係においては「出生したもの」とみなしています。つまり胎児も相続人になるワケです。

 では、遺産分割協議において胎児の相続権は、どのように確保すべきでしょうか?相続が開始したものの、胎児が未だ出生していないという状況の下で、遺産分割協議をどのように進めるべきでしょうか?

 この点、胎児を除く他の共同相続人間での分割を許し、胎児の出生後は、死後認知を受けた者に関する民法910条を類推適用して価額のみの支払請求を認めるべきとする見解があります。

 まず民法910条をみてみましょう。

 【民法910条】(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

この規定は、遺言による死後認知(民法781条1項)や父の死後の認知の訴え(民法787条)によって、被認知者が相続人になった場合に関するものです。同条が想定してるのは、つぎのような場面です。

死後認知を受けて相続人となった人がいました。ところが他の共同相続人によって、すでに遺産分割がおこなわれていたとします。この場合、被認知者はもう何ももらえなくなってしまうのでしょうか?

もし、何ももらえないとすると、非嫡出子の保護が不十分になります。しかし、いったん終了した遺産分割を再度やり直すのも大変です。

そこで民法は、910条で遺産分割の安定と非嫡出子の保護の調和を図ろうとしているのです。この規定により、遺産分割後に認知された非嫡出子には価額の償還請求が認められています。すなわち、自分が受けられるはずだった相続分に相当する額のお金を請求できるというワケです。

前記見解は、この規定を胎児の場合にも適用して処理しようというワケです。

しかし、この見解によると胎児が出生する前に遺産分割がすでに終了してしまうのですから、実際には胎児の権利が保護されないおそれがあります。

そこで、出生するまでは遺産分割協議をすることができないと解するのが通説的見解です。胎児が生きて生まれた場合は相続人になること、分割の実行までに時間がかかるのに対し胎児の出生時期はあらかじめ想定できることなどがその理由とされています。

3 当事者の一部を除外した分割協議
ここまで、どのような人が遺産分割協議の当事者になるのかについて検討してきました。胎児や行方不明者がいる場合など他の共同相続人にとっては面倒くさいカンジです。

「もう、いいじゃん!そんなの無視して、分割しようゼ。」という相続人もいるかもしれません。

しかし、遺産分割の当事者にあたる人を除外しておこなわれた遺産分割協議は無効です。結局、遺産分割をやり直さなければならないということです。

相続人のなかに胎児や行方不明者がいるような場合、忍耐が必要になるかもしれません。

4 ケースの遺産分割協議の当事者は誰か?
さて、【ケース2】では、共同相続人BCが遺産分割協議をおこなうことになります。ところが、分割協議が成立する前にBが死亡しています。

この場合、Bが受ける筈だった法定相続分はBの配偶者D、Bの子Eがそれぞれ相続します。このためAの相続について、DEが新たに遺産分割の当事者になります。

したがって、ケースの遺産分割の当事者はCDEの三人です。



なお、本ケースの素材となった平成29年宅建試験第6問の選択肢2は、「Eが代襲相続人として」とあります。

では本問のEは、代襲相続人でしょうか?

代襲相続が生じるのは、BがAよりも先に死亡していた場面です。

しかし、本問のBはAの相続開始時には生存しています。すると本問のEは、代襲相続人ではありません。

したがって、同選択肢の記述はこの点で誤りです。

 次回は、平成29年度宅建試験第6問選択肢3を素材とした、【ケース3】の検討に取りかかります。

2018年3月25日日曜日

平成29年度宅建試験〔相続〕から(4)遺産分割の当事者①


五 遺産分割の当事者

今回は、平成29年度宅建試験第6問選択肢2を素材として、遺産分割の当事者というテーマについてみていきたいと思います。

まず、つぎのケースをみてください。

【ケース2】
Aが死亡し、BCの二人が相続人となった。ところがBとCとの間の遺産分割協議が成立しないうちにBが死亡した。Bに配偶者Dと子Eがいる場合、Aの相続について遺産分割協議の当事者は誰か?

誰が相続人になるか、どれだけの割合で相続するかが決まっていても、相続に関するはなしはそれで終わりではありません。たとえば、相続財産に土地・建物、預貯金がある場合、これらの相続財産の2分の1を相続することが決まっていたとしても、どのように分割するかがただちに決まるわけではありません。

すべての相続財産を換金して分割するのか、あるいは土地・建物の現物を分割するのか、具体的な分割方法を決める必要があります。

これが、遺産分割です。遺産分割について民法は、906条~914条までにルールをおいています。では遺産分割は、誰がどのようにしておこなうのでしょうか?

ここで、民法907条をみてください。

【民法907条】(遺産の分割の協議又は審判等)
第1項 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
第2項 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
第3項 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

 つまり、相続人が数人存在する場合(「共同相続」という)、原則として共同相続人の間で協議によって遺産の分割をすることになります。これを遺産分割協議といいます。

 1 遺産分割協議の当事者
 では、どのような人なら遺産分割協議に参加できるのでしょうか?

 この点、民法907条は「共同相続人は…」と規定していますから、法定相続人全員が遺産分割協議の当事者になります。

 では、相続人ではないけれども相続財産について利害関係を有する者はどうでしょうか?たとえば、受遺者、相続分の譲受人、遺言執行者、相続債権者、相続人の債権者は遺産分割協議の当事者になるでしょうか?

 以下、順にみていくことにしましょう。

 (1)受遺者
 受遺者というのは、遺言によって無償で財産的利益を得る者をいいます。

これには、遺産中の特定の財産を与えられる「特定受遺者」と遺産の全部または一定の割合で示された部分を与えられている「包括受遺者」があります。なお、受遺者=相続人とは限りません。まったく血縁関係の無い人に、遺言で財産を与える場合もあるからです。

 たとえば、遺言で「建物甲を与える」とされていれば、遺言によって建物甲を与えられる者は特定受遺者です。そうではなく、遺言で「株式の40%を与える」とされている場合、遺言によって40%の株式を与えられる者は包括受遺者になります。

 以上の受遺者のうち、包括受遺者の扱いについて民法ではつぎのような規定をおいています。

 【民法990条】(包括受遺者の権利義務)
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

 つまり、包括受遺者と相続人を同じに扱うということです。では、なぜ両者を同じに扱うのでしょうか?

包括受遺者が承継する権利義務も法定相続人が承継する権利義務も、何パーセント・何割・何分の一というような抽象的な割合のかたちで示されているにすぎません。このため個別の財産が具体的に誰に移転するかは、遺産分割をしなければ明らかにならないのです。

これに対して、特定受遺者に与えられる財産は共同相続の目的財産から除外されます。遺産分割をしなくても与えられる財産を確定できるので、遺産分割の当事者に含める必要はないというワケです。




(2)相続分の譲受人
相続分の譲受人は、通常、遺産分割の当事者になるとされています。

(3)遺言執行者
遺言執行者というのは、遺言内容を相続人自身が執行すると公正な執行が期待できない場合に、遺言執行の目的のために特に選任された者です。遺言執行者は遺言処分の目的である財産について管理権・処分権を有しています。民法1012条をみてください。

【民法1012条】(遺言執行者の権利義務)
第1項 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
第2項 第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

 「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為」をする権限があるとされています。そしてこの権限のなかには、遺産分割協議も含まれると説明されることが多いようです。もっとも遺言執行者の遺産分割協議への参加が必要かどうかは、遺言の内容によるというべきでしょう。

 (4)相続債権者および相続人の債権者
 相続債権者および相続人の債権者は、遺産分割前であっても各相続人が個々の相続財産に有する相続持分に対して強制執行することが可能です。このため、遺産分割協議の当事者と扱う必要はありません。

 次回は、遺産分割協議の当事者の一部が、協議に参加できない場合の扱いについて検討します。

2018年3月20日火曜日

平成29年度宅建試験〔相続〕から(3)法定相続分



はじめに

 現在検討中の【ケース1】を、確認しておきましょう。

【ケース1】〔選択肢1〕
Aが死亡し、BCの二人が相続人となった。ここで、①BがAの配偶者でCがAの子である場合と、②BとCがいずれもAの子である場合とで、Bの法定相続分に違いはあるか?

相続人Bが、第一順位の相続人であった場合と、配偶者であった場合とで法定相続分に違いがあるかという問題です。そして前回は、まず①②いずれも場合も、Bが相続人になるかどうかを確認しました。

今回のテーマは、法定相続分です。

2 法定相続分
相続人であるかどうかを明らかしても、それだけでは十分ではありません。つぎに問題になるのは、各相続人の法定相続分です。民法900条をみてください。

【民法900条】(法定相続分)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一  子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

同条1号によれば、子と配偶者が相続人になる場合は、各二分の一とされています。
つぎに、配偶者と第二順位の相続人(直系尊属)の場合は、同条2号です。


最後に、配偶者と第三順位の相続人(被相続人の兄弟姉妹)の場合は、同条3号です。



まず、【ケース1】①の場合、すなわち配偶者と子が相続人になる場合については、900条1号で規定されていました。それによると、子の相続分および配偶者の法定相続分は各2分の1です。

この規定から、BCの法定相続分は2分の1ずつということになります。したがって、配偶者Bの法定相続分は2分の1です。

つぎに【ケース1】②の場合、すなわち子が数人ある場合については900条4号で規定されています。それによると、各自の相続分は相等しいものになるとされています。つまり、子の数で頭割りするワケです。

この規定から、BCの法定相続分はこの場合も2分の1ずつということになります。したがって、子Bの法定相続分は、この場合も2分の1です。

以上の検討から、【ケース1】①②いずれの場合も、Bの法定相続分に差はないということになります。試験問題の選択肢1の記述は「①の方が大きい」となっていました。そうすると、ここまでの検討から分かるように、試験問題の選択肢1は誤った記述です。

ところで、前回登場した代襲相続があった場合、代襲相続人の法定相続分はどのようになるのでしょうか?つぎの例題で考えてみましょう。

【例題】
Aが死亡して相続が開始した。Aの相続人CDEの法定相続分に関する記述として、民法の規定及び判例によれば正しいものはどれか。
①CがAの子で、DEはAの子Bを代襲したものである場合、その法定相続分は各3分の1になる。
②CがAの子で、DEはAの子Bを代襲したものである場合、その法定相続分はCが2分の1、DEは各4分の1になる。



 この例題のような場合、代襲相続人の法定相続分は相等しいものになるのでしょうか?それとも、それとは異なる法定相続分になるのでしょうか?

この点につき、民法901条はつぎのように定めています。

【民法901条】(代襲相続人の相続分)
第1項 第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
第2項 前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。

つまり代襲相続人の相続分は「その直系尊属が受けるべきであったものと同じ」、すなわち被代襲者の相続分になります。

そして【例題】のように代襲相続人が数人あるときは、「各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める」とされています。

【例題】でいえば、DEの直系尊属Bが受けるべきであった部分(2分の1)について、民法900条の規定にしたがって相続分を定めます。DEはいずれもBの子ですから、DEの法定相続分は相等しいものになります。

つまり、もしAの相続開始時にBが生存していたのであれば、BCで各2分の1の法定相続分になります。しかし【例題】では、BはAよりも先に死亡しておりDEがBを代襲しました。このためBが受ける筈だった2分の1の法定相続分をBの子DEが代襲相続することになります。そして、民法900条4号の規定からDEが受ける法定相続分は相等しいのですから、2分の1×2分の1=4分の1となります。




したがって、【例題】は②が正解ということになります。代襲相続人が数人いる場合、法定相続分は単純な頭割りにならないことに注意してください。

ようやく【ケース1】の検討を終えました。次回は、【ケース2】の検討に取りかかりたいと思います。