2018年4月5日木曜日

平成29年度宅建試験〔相続〕から(6)遺産分割の対象①


六 遺産分割の対象

前回は、遺産分割の当事者について検討してみました。具体的には、誰が遺産分割協議に参加できるできる人なのか?という問題でした。今回は、遺産分割の対象についてみていきます。何を遺産分割するのか?という問題です。

【ケース3】
Aが死亡し、BCの二人が相続人となった。BCの遺産分割協議が成立するまでの間に遺産である不動産から賃料債権が生じ、BとCがその相続分に応じて当該賃料債権を分割単独債権として確定的に取得した。遺産分割協議で当該不動産をBが取得した場合、Cは既に取得した賃料債権を清算する必要はあるか?

1 遺産分割時の相続財産
相続人が数人存在する共同相続において、相続財産の帰属はどのように決まるのでしょうか?

相続が開始すると、被相続人の一切の権利義務が相続人に帰属します(民法896条)。共同相続の場合、遺産の権利関係は遺産共有の状態になります(民法898条)。

この遺産共有という状態については、学説上争いのあるところです。この点、つぎのように説示した最高裁判例があります。

「相続財産の共有(民法八九八条、旧法一〇〇二条)は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する『共有』とその性質を異にするものではないと解すべきである。」(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁)

判例は、民法上の共有と同じであるという見解に立っているということです。とりあえず、ここでは遺産共有≒共有と考えることにしましょう。

ただし、遺産分割前の遺産共有の状態は、あくまで遺産分割によって最終的に解消されるまでの暫定的・過渡期的状態というべきものです。民法は権利義務の帰属について、できるかぎり個人に単独帰属する状態を理想としているからです。

では、相続人は遺産を保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する遺産の引き渡しを請求できるでしょうか?

遺産共有の状態では、具体的にどの相続財産が誰に帰属するのか決まっていません。相続財産に土地・建物がある場合、それぞれの財産について共同相続人の共有状態になっています。土地が欲しいという相続人もいれば、建物が欲しいという相続人もいる筈です。

ここで相続分に相当する遺産の引渡しを認めるとしても、相続人間において協議をする必要があります。遺産分割をして、遺産共有の状態を解消することが必要になるワケです。そうだとすれば、このような引渡請求を認める意味はありません。

したがって遺産共有の状態のままでは、遺産を保管する他の相続人に対して自己の相続分相当の遺産の引渡しを求めることはできないことになります。

遺産分割の対象は、「遺産分割時の相続財産」です。この財産を具体的相続分に基づいて分配します。ただ、何が遺産分割時の相続財産になるかは、個別の財産ごとに検討する必要があります。

2 賃料債権の扱い
たとえば不動産を賃貸している場合、一定時期に賃料債権が発生します。相続財産のなかにこうした賃貸物件が存在する場合、この賃貸物件も遺産分割の対象になります。

では、賃貸物件から生じる賃料債権はどのように扱われるのでしょうか?ここでは、賃料債権が(1)相続開始時に既に発生していた場合と(2)相続開始後、遺産分割までの間に生じた場合とに分けて検討します。

(1)相続開始時に既に発生していた賃料債権
相続開始前に既に発生していた未払いの賃料債権は、相続開始によって相続財産となります。では、この場合の賃料債権は遺産分割の対象になるでしょうか?



相続財産になるのなら、遺産分割の対象になりそうです。しかし、金銭債権のような可分債権については注意が必要です。

相続財産のなかに金銭債権のような可分債権が存在する場合、判例は、遺産分割の対象にならないとしているからです。

「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする。」(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)

つまり、相続財産中の「金銭その他の可分債権」は、遺産分割をしなくても当然に法定相続分に応じて相続人に分割帰属するということです。このため家裁実務においては遺産が金銭債権だけである場合、分割の対象となる財産がないので遺産分割の申立てをしても却下されます。

ここで可分債権ならば遺産分割によらず当然分割されるというのは、民法427条の規定に基づいています。

【民法427条】(分割債権及び分割債務)
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

つまり、債権債務が「不可分債権・債務」でなければ可分だというワケです。いいかえれば、数人でひとつの債権を有する状態であれば、原則、各債権者がその債権を分割取得するということです。そして分割された債権を有する債権者は、自分の債権だけを単独で行使できます。

賃料債権も金銭債権です。金銭債権は、原則、可分債権です。すると賃料債権は、可分債権ということになります。

以上のことから、相続開始時に既に発生していた賃料債権は遺産分割の対象にならず、法定相続分に応じて当然分割承継されることになります。



 次回は、遺産分割の対象に関して引き続き賃料債権の取り扱いについて検討します。