2018年4月9日月曜日

平成29年度宅建試験〔相続〕から(7)遺産分割の対象②


前回から遺産分割の対象というテーマに取りかかりました。今回は、相続開始後に生じた賃料債権の扱いについて検討します。まず、現在検討中のケースを確認しておきましょう。

【ケース3】
Aが死亡し、BCの二人が相続人となった。BCの遺産分割協議が成立するまでの間に遺産である不動産から賃料債権が生じ、BとCがその相続分に応じて当該賃料債権を分割単独債権として確定的に取得した。遺産分割協議で当該不動産をBが取得した場合、Cは既に取得した賃料債権を清算する必要はあるか?

(2)相続開始後、遺産分割までの間に生じた賃料債権
この場合の賃料債権の扱いについて、まず確認しなければならないことがあります。それは、相続開始後、遺産分割までの間に生じた賃料債権が相続財産になるのか?という点です。

この賃料債権は、相続財産のなかの賃貸物件から生じた債権です。そうすると、相続財産であると考えるかもしれません。しかしよく考えてみると、相続開始後に生じた賃料債権を相続財産と考えることはできない筈です。なぜでしょうか?

 さきにもみたように、相続が開始すると被相続人に属した一切の権利義務は相続人が承継します(民法896条)。そうすると賃貸物件の所有権も、相続人に移転していることになります。

所有権の内容は、使用・収益・処分権です(民法206条)。つまり、相続開始後、賃貸物件から生じる賃料債権は相続人のもとで生じることになります。

このことから、相続開始後に相続財産から生じた賃料債権それ自体は、相続財産ではないということになるのです。

そうだとすれば、この場合の賃料債権は遺産分割の対象にもなりません。遺産分割の対象は、遺産分割時の「相続財産」だからです。そこで、相続財産でないのだから、当然、遺産分割の対象にもならないという考え方があります。

このことは、賃料債権権に限らず遺産分割までの間に相続財産から生じた果実全般についてもいえます。このため多くの基本書等では、「相続開始後、遺産分割までの間に生じた果実」というかたちで検討されています。

 さて、相続開始後、遺産分割までに生じた賃料債権(果実)が遺産分割の対象にならないとすれば、共同相続人間においてこの場合の賃料債権(果実)をどのように扱うのでしょうか?

 遺産分割の対象にならないのですから、遺産分割協議では相続開始後に生じた賃料債権の分割について協議しないということです。賃料債権の分割については、別途の解決が必要になります。

 しかし、これでは遺産関係の相続人間の争いを分割後にも残すことになり、紛争の一回的解決になりません。このため各相続人に大きな負担を強いることになります。

 以上に対して、相続開始後に生じた果実も遺産の自然的増大なので遺産と同視して、すべて遺産分割の対象になるという考え方もあります。民法906条をみてください。

【民法906条】(遺産の分割の基準)
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

同条は、遺産分割の基準に関する規定です。共同相続人の共有となった遺産の分割にあたり、個別的な事件の事情を考慮しつつ相続人間の実質的公平を実現しようとしています。

そして、相続開始後、遺産分割までの間に果実が生じたという事情を「その他一切の事情」に含めて考え、相続開始後に生じた果実も遺産分割のなかで扱うというのが前述の考え方です。

つまり、遺産分割協議のなかで賃貸物件の分割はもちろん、相続開始後に生じた賃料債権も扱うということになります。

この考え方によれば、遺産分割のみで遺産をめぐる問題を解決できます。しかし他方で、遺産分割の内容が複雑なものになるおそれがあります。

この点、最高裁判所はケースと同様の事案において、つぎのように説示しました。

「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」(最判平成17年9月8日民集59巻7号1931頁)

つまり最高裁判所は、相続開始後、遺産分割までに共同相続不動産から生じた賃料債権は遺産とは別の財産であり、その相続分に応じて当然に分割帰属するとしました。

 遺産とは別個の財産というのですから、遺産分割の対象になりません。しかし、そうすると相続財産をめぐる紛争の一回的解決を図ることができなくなるおそれもあります。そこで、相続分に応じて当然に分割帰属するとしているワケです。

 ところで、相続開始後に生じた賃料債権は相続財産でもないのに、なぜ相続分に応じた分割をするのでしょうか?この点、以下のように考えておけばよいと思います。

 まず、賃料債権を生み出す不動産は相続開始により共同相続人の共有になります。遺産共有の状態です。すると共同相続人は、遺産中の不動産について相続分に応じた割合の共有持分を有していると考えられます。

 そして共有物から生じた果実は、元物の持分割合に応じて各共有者が取得すると考えられています。

 したがって、遺産共有の状態にある財産(元物)から生じた果実は、元物の持分割合である相続分に応じて取得することになるというワケです。

 3 【ケース3】の検討
 【ケース3】では、相続開始後、共同相続人BCによる遺産分割協議が成立するまでの間に遺産である不動産から賃料債権が生じています。そして、これを相続分に応じて各人が分割単独債権として確定的に取得しています。

 この債権の取得は、遺産分割によるものではありません。さきにもみたように、遺産分割の対象にならず当然分割帰属ということでしたね。

 そしてケースによれば、BC間の遺産分割協議により元物である不動産はBが取得しました。前記、最判平成17年9月8日によれば、後におこなわれた遺産分割の影響を受けないと説示していました。このことから、Cは分割単独債権として確定的に取得した賃料債権を清算する必要はありません。

 平成29年宅建試験第6問選択肢3は、前記最高裁平成17年9月8日の理解を問うものです。ここまでの検討のとおり、誤りはありません。正しい記述です。

 次回は、預金債権の扱いについて検討してみましょう。